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塩風土記

日本全国の塩にまつわる歴史・民俗的な話題をご紹介。

萱津神社 香の物祭

萱津(かやづ)神社は、愛知県あま市に位置する日本で唯一の漬物を祭る神社だ。祭神は鹿屋野比売神(かやぬひめ)である。

古伝によれば、その昔土地の人々は神前に初なりのウリやナスなどを供えていたという。当時はこのあたりは海浜であったので、海水からつくった塩も供えるようになり、これらの野菜と塩を一緒にカメに入れて供えたところ、程よい塩漬けとなった。人々は雨露に当たっても変わらないその味を不思議に思い、神からの賜りものとして万病を治すお守りとし、遠近を問わず頂きに集まるようになったという。これが、日本の漬物の始まりであるといわれている。

毎年8月21日には、「香の物祭」が行われ、漬け込み神事を行い、漬物の生産と家業繁栄・諸病免除を祈る。各地から漬物業者が集うこの祭は、全国で唯一の漬物の祭礼として、あま市無形民俗文化財に指定されている。
香の物とは「漬物」のこと。漬物を香の物と呼ぶのは、日本武尊が東征の道すがら萱津神社にご参拝になった際、村人たちが献上した漬物を喜ばれ「藪に神のもの(やぶにこうのもの)」と仰られた、という故事にちなんでいるという。


香の物祭

香の物祭では、午後2時から本殿祭が始まる。社務所を出発する神職者たちの列は壮観だ。この祭では、ゆかりの深い熱田神宮からも特に祭員の出向を願うという。ひときわあでやかなのはこの神社の神である鹿屋野比売神(かやぬひめ)に扮する乙女たちだ。祭神に祝詞をささげ、御払いを受け、神職者たちの列は本神殿へ向かう。本神殿内では、神饌をささげ、巫女の舞が奉納される。

その後、「香の物殿」という漬物のための小さな社に場所を移し漬込神事が始まる。香の物殿の前には、奉納された野菜が並べられており、香の物殿の内には、漬物用のカメが用意されている。奉納された野菜は神事の後、塩とともにカメに漬け込まれる。カリモリ(ウリの一種。愛知伝統野菜の一つにも選ばれている)やナス、虫よけとして漬け込まれる蓼(たで)などだ。

この漬け込み神事には、一般の参列者も参加することができる。参列者たちは手に手に野菜を持ち、長い列を作って順番を待つ。香の物殿の前で、皿に盛られた塩をつけ、甕(かめ)の中に入れる。これが2年かけて香の物になるのだ。漬け込みが終わった後は、お神酒の振舞いがあり、神事は終わる。出来上がった香の物は、熱田神宮の例祭の大祭などに特殊神饌(とくしゅしんせん)として奉献されるという。

境内では、2年前に漬け込まれた香の物がふるまわれる。万病の妙薬として珍重された萱津神社の香の物は、表面に塩が噴くほどの、とても「しょっぱい」味だ。


香の物殿

万病の妙薬とされた香の物(ナスとカリモリ)
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