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塩の博物誌

塩業資料室の資料紹介

<第26回>
塩の名前

   


   塩には、様々な名前がある。ここで、そのいくつかを紹介しよう。

【波の花】
   「ナミノハナ」と呼ばれる。実は、私はこの仕事に就くまで「波の花」が「塩」の俗称ということを知らなかった。たまたま別件で商標登録できない例として「波の花」(塩)という呼び名を知ったのだ。登録できない程この名前は一般的なようで、『塩俗問答集』によると、北は青森県から南は佐賀県まで、広範囲で用いられている。「塩」の代替として常時用いる地方、夜間に用いる地方、花柳界で用いる地方、あくのない上等な塩に用いる地方などがある。
   波の花が用いられるようになったのは、塩は‘萎れる’に通じるため商人がこれを嫌ったからだという。特に水商売では客の入りに関わることなのでシオと言うのを避けたそうだ。
   ところで、何故、夜間に「塩」とい言葉を用いるのを忌み嫌ったのか? 塩を夜間に運搬したり、売買したりするものではないという伝承は全国的にあった。この理由は、諸説ある。夜の運搬は山犬に襲われるからとか、火事が起こるからとか、暗くて枡量りが大変だったからとする説がある。また、清浄なものを夜の陰気なときに買いたくないからという説がある一方で、民間伝承上の日没は一日の始まりで神が降りてくるから神への供え物である塩の出し入れをこの時にするのを忌み嫌ったという説もある。

【マシオ】
   海水に対応して用いる場合と、苦汁を混ぜない塩に用いる場合がある。

【コシオ】
   海水を大潮と言うのに対応して用いる。

【海の砂糖】
   夜間売買用の忌語として用いる。

   塩は、他にも地方によって、「サシジオ」、「キヨメ」、「シンザエ」、「アコウ」などの名前があったそうだ。

   『塩俗問答集』は、昭和7年に行なったアンケート調査をもとに編集されたものであり、各地方の塩の異名、信仰、貯蔵と容器などが記載されている興味深い一冊である。

【食塩】
   「食塩」は、「食料用塩」の商品名として付けられた名前だと聞いたことがある。それ以前にも食塩水など一般的に「食塩」という言葉は使われていたようだが、誰もがわかりやすく他商品と見分けがつくようにと、専売制度下の昭和35年に「食塩」という商品が生まれた。専売制度下では競合他社がいるわけもなく、一般消費者が最も目にする商品「食塩」が世に浸透して、今では子供向け実験本や料理本などで、「塩」ではなく「食塩」と記されるまでになった。

【塩化ナトリウム】
   塩の主な成分である。科学的には、この名前で通っており、NaClという単純な化学式で表すことが出来る。塩は、食品としては珍しく無機物のみからなる。

   皆様の地域では、「塩」をどんな名前で呼んでいたのだろうか?



Webマガジンen編集部



参考文献

田村勇 『塩と日本人』 雄山閣 1999

澁澤敬三編 『塩俗問答集』 常民文化叢書〈3〉 慶友社 1969 

 


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