[トップページへ]

Director's Notes

ニーズとウォンツ

2006年11月号 No.49

   塩の仕事をしていると、知人から「いろんな塩が売られてるけど、どういう塩がいいの?」と尋ねられることがよくある。これだけいろんな種類の塩が売られるようになると、どれを買えばいいのか迷うことが多いのだろう。

   しかしこれはとても答えにくい質問だ。「塩」という部分を何か別の、例えば「家」や「パソコン」に置き換えてみるとわかりやすいかもしれないが、回答はその人が何を求めているかによって変わってくる。

   マーケティングでは、ニーズ(needs)とウォンツ(wants)という言葉がよくセットで使われる。ニーズというのは必要か必要でないかの度合い、ウォンツというのは欲しいか欲しくないかの度合いを表しているのだそうだ。

   例えば灯油やガソリンは、足りなくなると非常に困るので、ニーズはとても高いが、必要量さえ満たされてしまえば特にそれ以上欲しくはなくなるので、ウォンツは低いとされている。

   逆に有名ブランドものの時計やバッグは、ニーズは低いがウォンツが高いものの代表とされている。時計にしろバッグにしろ、十分の一、場合によっては百分の一以下の価格で、機能的・品質的に十分なものが購入できるにもかかわらず、“欲しい”から高いお金を出して買う人がいる。

   ここでいうニーズというのは非常に実質的なものだ。それが無いとまともな生活が出来なくなってしまうので、どうしても必要だから買う、というときの動機となるものがニーズ。一方ウォンツは非常に感情的なものだ。別に無くても困らないんだけど、(なぜ欲しいのかよくわからないが)欲しいから買う、というパターン。

   人間は食べなければ死んでしまうので、食品はこれまでニーズの高いものの代表とされてきたが、最近はこの図式に当てはまらないケースが多い。「関さば」や「魚沼産コシヒカリ」をはじめとしてあらゆる品目でブランド化が行われたり、一斤2,000円の食パンがネットで飛ぶように売れたり、高くてもあえて有機野菜を買う人が増えたりと、食品はウォンツもまたニーズと同様に高いものになりつつある。

   考えてみると、現在の生活で物質面において基本的なニーズが満たされないというケースは、食品という非常に基本的なものはもちろん、全ての“もの”についてほとんどなくなったといっていいただろう。必要量に足りない、などという経験を全くしなくなった現代の日本人は、食品だけでなくほとんどあらゆるものについて、単にニーズを満たすだけでは満足せず、なにかしらの付加価値のある、ウォンツをも満たしてくれるものを求めるようになっている。

   ここ数年で非常に高まってきた塩に対する“こだわり”もこの流れに沿ったものなのだろう。読者諸兄は塩に対して何をお求めだろうか。

   冒頭の質問への筆者の回答は「好きなのを買えば」だ。つまりウォンツの基準のみで選んでしまいなさい、というもの。無責任なようだが、好みは千差万別だし、時と場合によっても変わるので、これがいちばんだと考えている。そのようにしていろいろと試行錯誤しながら、自分なりの判断基準を決めてみてはいかがだろうか。


Webマガジンen編集部



ページTOPに戻る ▲


Copyright(C)2002 The Salt Industry Center of Japan. ALL RIGHTS RESERVED.