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夏季休暇を利用して、7月にブラジルやペルーを訪れるツアーに参加した。主な見所は、イグアスの滝、マチュピチュの遺跡、ナスカの地上絵だ。あちらは冬で乾季であったため、朝晩は冷え込んだが、雨に降られることもなく、日中は過ごしやすかった。
イグアスの滝はアルゼンチンとブラジルの2カ国にまたがっている。
アルゼンチン側からのイグアスの滝 |
アルゼンチン側から見た滝は、小さいが落差が激しく、天気が悪いのも相まっておどろおどろしい感じがした。その後、ブラジル側からも滝を見た。こちらは、広々としていた。ゆるやかな山道と階段でできた緑豊かな遊歩道に沿って滝を眺めた。散歩にはぴったりの陽気で、心地よいときを過ごせた。帰国して間もなく「イグアスの滝の水量が例年の2割程度」というニュースを見て、驚いた。本来はもっと水量が多くて迫力があったのか。のほほんとした景色はこの時期だったからなのかもしれない。
ブラジル側からのイグアスの滝 |
マチュピチュの遺跡は、急勾配な山の上にある。クスコから電車でトコトコ4時間。遺跡の最寄り駅からは直行バスに乗る。これが凄い! 細い山道をガンガン走っていく。一本道だから、もちろん対向車も来る。運転手は慣れたもので対向車が来ると、バックで素早く、すれ違いスペースまで下がる。崖から転落したら一溜まりもない。乗っていてハラハラしてしまった。
マチュピチュ |
軽いスリルを味わいたい方にはお勧めだ。ただし、このバスを利用しない場合は歩いて登ることになるので、多くの観光客はこのバスを利用することになる。山頂は天気が良くて日差しが強かったので、冬だというのに肌がジリジリした。目の前に広がる遺跡は、積み上げられた石の灰色と一面に広がる緑の対比が鮮やかで、私はしばらく草の上に座って静かなときを過ごした。こんな山の上ならスペイン人が見つけられなかったのも理解できるが、生活していくのは大変だったと思う。水の確保すら容易ではなかったはずだが、遺跡には段々畑が広がり、昔の人の知恵の結晶を見ている気がした。
ナスカの地上絵は、上空と展望台から見下ろした。セスナから見る地上絵は、光の加減等で見えやすい絵とそうでないものがあったが、何千年も昔に人類が描いた巨大な絵に、そしてそれが今も残っているという素晴らしさに感動しつつ、右に左に旋回するセスナに乗り物酔いしてしまい複雑な気持ちになった。眼下には、岩肌がむき出しの山と、緑のない灰色の平らな地面が広がっていた。
ナスカの地上絵 |
ナスカは、現地語のナナスカという言葉に由来しており、ナナスカとは、辛く厳しいという意味だそうだ。生物の気配を感じない土地。雨量が極めて少なく、なんと年間降雨量は5ミリだという。ちなみに日本の年間降雨量は約1,700ミリだそうだ。そんなことを聞くと、より一層ここで人が生活するのは並大抵のことではなかったろうと感じた。砂漠地帯で雨が降らなかったことを喜んでいられたのは旅行者だったからかもしれない。
旅の目的の一つは本物に触れることである。そして、それ以上に、否、そこからいろいろな発見がある。自分を見つめる時間が持てる。砂漠地帯に住む人々は過酷な環境の中で生活している。今の自分とどちらが幸せかは分からないが、少なくとも今、私がそこに住もうとしたならば、耐えられないであろうと思った。同じ地球に生活しながら、こうも違う生活環境とは不思議な感じがする。砂漠の中にポツリポツリと存在する、こじんまりとした飾り気のない家を眺めつつ、もっとシンプルに生きようと思った。
ところで、添乗員やガイドが同行するツアーでは、コテコテの土産物屋に寄るのが一般的だ。スーパーマーケットや市場に連れて行ってくれたほうが現地の生活が垣間見えて、よっぽど有意義だと常々思う。こんなことを安易に思えるのも、日本が平和なせいだろうか。
今回立ち寄った土産物屋は、日本人観光客向けのようで日本人の店員がおり、詳細な部分まで日本語が通じた。そこでは、ボリビアの塩(ピンク色の岩塩)やインカの塩(マサラ塩田の塩)が売られていた。日本における塩ブームが、ここまで来ているのかと驚いた。ただ、あくまでも日本におけるブームのようで、これらの塩の包装表記は日本語だった。街中や空港の土産物屋には見られない特徴だった。わざわざ外国まで来て、重たくて、自国よりも高価な塩を土産に買って帰ろうと思う人は珍しいと思うのだが、商品として成り立っているということは、売れているということだろうか。ブラジルやペルーでボリビアの塩を購入するのは、シンガポールで made in China の土産を購入するのと変わらない気がするが、日本から丸一日かけて南米まで来ると、南米という地域で一括りにしてしまうのだろう。
では、ブラジルやペルーの人はボリビアの塩を食べているのであろうか? スーパーマーケットに行ったり、現地の人の話を聞いたりしていないため実際のところは不明だが、2002年の塩需給状況を見ると、ブラジルは世界第9位の塩生産大国であり生産量が消費量を少し上回っている。ペルーも多くの塩を輸出している(「British Geological Survey」より)。このことから、両国は塩の供給に逼迫して輸入しているということはなさそうだ。輸送費等を考慮すると、おそらく食されている主な塩は、自国の塩だと思われる。
日本では稀に、ミネラル豊富と謳っている塩を食べれば、相当量のカルシウムやマグネシウムが取れると思い込んでいる人がいるが、それは間違いである。一日の塩の摂取量を10gと仮定すると、家庭の調味用として使う塩はその約10分の1であり、その量の塩に含まれるカルシウムやマグネシウムを計算すると、塩だけでは補えないことは一目瞭然である。また、ナトリウムもミネラルだと聞いて驚く人もいる。塩に限らず、宣伝文句を鵜呑みにする「健康家」がなんと多いことか。テレビ等で「からだに良い」と言われれば、その日のうちにスーパーからその物がなくなるのも珍しくない。
減塩ブームの影響で、最近の梅干は塩量を減らしている。私たちは、既にその味に慣れていて、塩だけで漬けた梅は物凄くしょっぱく感じる。梅干は、もともと保存食であったが、塩を減らすことで賞味期限が短くなり、保存料が添加されているものも珍しくない。飽食の時代にある日本では、既に梅干の保存食としての側面はほとんど失われてしまったようだ。伝統食だと思っていても、時代と共に変わっていくのだ。
リマからナスカへと砂漠をひた走るバスの中で、成田空港で買い求めた個装梅干を食べながらそんなことを考えていた。
Webマガジンen編集部 |