当誌でリンクさせてもらっている「安心!?食べ物情報」(http://food.kenji.ne.jp/)というホームページを毎週見ている。Q&Aがおもしろい。毎週様々な質問に答えておられるが、このホームページの管理者の忍耐強さに感心する。質問の半分以上は「トイレの花子さん」のような都市伝説とも言うべきデマや迷信のたぐいである。
それにしても食の安全に対する意識の強さは相当のものである。デマや迷信ばかりと笑っていられない。
例えば当塩事業センターに関係がある塩について「自然塩は短命の原因か?」という質問がある。これは、自然塩に比較的多いにがりが内臓を含めた人間の体を硬くするのではないかという質問である。どうもにがりが豆腐を固めるので、身体の中でもたんぱく質を固めるだろうと考えたらしい。それが「間違いだらけの健康常識」(http://www.global-clean.com/)というホームページに載っている。バカバカしいといってしまえばそれまでであるが、同じ質問が数件寄せられている。不思議なことを考える人がいるものである。
ついでに言えば、にがり分の多い自然塩はおいしいといわれることが多い。塩をなめると、NaCl分の多い塩は刺激的なからさを感じ、にがり分の多い塩はまろやかなからさといわれる。これは実験してみると多くの人がこのように感じるらしい。しかし、塩はそのままなめることは少ない。味付けに使うときはNaCl分の多い塩は効きがよく、にがり分の多い塩は効きが悪い。言い方を変えると、NaCl分の多い塩はキレのよいからさであり、にがり分の多い塩はボンヤリしたからさである。言い方一つでイメージが変わるように思う。
「安心!?食べ物情報」の質問を読んで感じることが二つある。一つは「自分で調べ考える」という姿勢が乏しいことであり、もう一つは「問題には必ず一つの正解がある」と思っているのではないか、ということである。
これは学校教育の欠点の一つであると思うが「問題には唯一の正解が必ずある」と信じ込んでいる人が多いようだ。社会学的な問題は勿論、自然科学の問題であっても一つの正解があることは少ない。そもそも正解があるかどうかすら不明であると考えた方がよい。
更に学校の問題をいうと、次のような質問があった。「学校の方で着色料が人間に与える害について調べています。できれば情報を下さい」というものである。どのような学校かは知らないが、教師の質の悪さが思われる。
着色料は許可された食品添加物であり、「人間に害がない」ということで許可されているものである。人間に害を与えるデータがあれば、許可されないし、取り消されるはずである。
合成着色料や食品添加物には害があると信じ込んでいる人がどれほど多く、又思い込みが強いかよくわかる。中には、化学合成されたものは害があるが、天然着色料などは害がないと信じている人も多い。だがこれにも根拠はない。
L-アスコルビン酸ナトリウムという物質がある。これを毎日飲んでいると体に悪そうである。しかし、これは一般にビタミンCと呼ばれている。同じものでも呼び方によって良くも悪くもなる。
食物に関するデマや迷信は数多いが、その代表の一つが酸性食品とアルカリ性食品である。
「酸性食品を食べ過ぎると身体が酸性になって病気になる」
「血液が酸性になるとドロドロになって健康に悪い」
というところがその代表であろうか。
人間の血液のpHは7.4位でかなり厳密に定まっている。糖尿病がひどくなると血液のpHが動くことがあり、pH7.2を切ったあたりで昏睡状態となり死んでしまうらしい。従って実際に血液が酸性(pH7を切る)になって生きていられる人間はいないということである。
酸性食品、アルカリ性食品とは、その食品を燃やしてあとに残る灰分(ミネラル分)を水に溶かしたとき酸性になるか、アルカリ性になるかによって区分されるものである。実際にはリンが多いと酸性食品、カルシウムが多いとアルカリ性食品と呼ばれるらしい。「それがどうした」と言われると困るが、酸性食品とアルカリ性食品をバランスよく食べましょう、ということにすぎない。
従ってミネラル分を含まない砂糖は、酸性食品でもアルカリ性食品でもないということになる。塩はそもそも全てがミネラル分であり、又陽イオンと陰イオンが等量含まれているので、中性食品となろうか。
先日テレビを見ていたらベトナム産の焼き塩を紹介していた。うすい茶色をしていたが、アナウンサーが、焼いたので塩がコゲて茶色くなっている、と説明していた。砂糖と塩は似たようなものだと思ったのかも知れないが、砂糖は有機物であるが、塩は無機物である。従って砂糖を加熱するとコゲて茶色のカラメルになる。しかし塩はいくら加熱してもコゲることはない。塩がコゲるほど加熱しようとすると、数十億度の熱が必要であろう。それでナトリウムが壊れたりすると、これは核融合反応であり、おそらく地球が吹き飛ぶであろう。
塩は食品としては特殊なもので、水を別にすれば唯一の無機物である。他の食品は全て有機物、即ち生き物である。従って無機物である塩は腐ることがなく、最も安全な食品である。
今、食品の安全性が様々に問われている。医食同源という言葉があるくらいだから、食品は我々の健康にも重大な影響を持つと思われる。そこで食の安全が強く求められるのは当然とも言える。
しかしここで「食の安全とは何か」ということを考えてみる必要がある。虚偽表示などは論外であるが、「食の安全」がどういうことを意味しているかは、難しい。
食の安全の基本はその食品が毒物を含まないということであろう。だがこれも簡単ではない。薬がよい例である。毒物も少量を適正に用いれば薬になるのである。又、毒物でないとされる塩も200g以上一度に摂取すると半数の人が死ぬ可能性があるし、砂糖も一度に2kg以上摂取すると同様の結果となり得る。つまり毒物であるかどうかはその摂取する量による。
又明らかに猛毒を持つフグは高級食材であるし、ジャガイモの芽も毒を含むと昔から言われている。全ての食品はその食べ方によって毒になるといってよい。
次に重要な問題は腐敗である。塩以外の食品は全て有機物であり、細菌の食料となる。従って腐る。今でも食品による害の最大のものは食中毒である。防腐剤は健康に悪いと評判が良くないが、食中毒によるデメリットの方がはるかに大きいと思われる。
次の問題はいわゆる慢性毒性である。ダイオキシンやメチル水銀、食品添加物や残留農薬、更に遺伝子組換食品など今最も多くの人が気にしている問題である。だが水俣病や農業従事者の農薬中毒を別にすれば、これらを原因として人が死んだ例はない。
ダイオキシンで死んだ人はいないし、残留農薬で死んだ人もいないのである。では何が問題かといえば、これらを口にすることにより、将来健康に害がでるのではないか、つまり慢性毒性が問題となっているのである。
だが、このような将来のあるかも知れないリスクに対し安全を保証することは困難である。そもそも科学はリスクがあることを証明することは可能であるが、リスクのないことを証明するのは原理的に不可能である。
今あなたが食べている無農薬・有機野菜が絶対に安全であるという科学的証明はないのである。「昔から食べているから安全だ」という考え方も、統計学的には何ら意味はない。ジャガイモは今、遺伝子組換作物のような安全性テストをしたら合格しないだろうといわれている。
食べ物に限ったことではないが、安全は相対的なものである。人間が生きているかぎり様々なリスクがある。人間の死亡率は100%であり、生きていること自体がリスクであるともいえる。又その人の生き方により甘受すべきリスクもあろうし、どうしても避けたいリスクもあろう。あるリスクを避けることにより、他のリスクが増大することも多い。
従って絶対安全ではなく、自分の生き方の中でトータルのリスクをなるべく少なくするよう考えるべきであり、その中で食の安全も又考えるべきであろう。
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