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おいしいと実感したあとは、そのおいしさをさらに期待してより多く摂取しようという前向きの姿勢になる。このとき働く脳内経路を「報酬系」という。この報酬系の発見につながる実験が1954年アメリカの心理学者オールズとミルナーによってなされた。自己刺激といわれる実験で、例えばラットがレバーを押すたびに脳内にパルス状の電気刺激が与えられるようにしておくと、刺激電極の部位によっては、ラットが1時間に5000回もの頻度で24時間ぶっ通しでレバーを押し、疲労困憊に陥ったという記録もある。
さて、このときラットはどんな気持ちでレバーを押しているのだろうか?少なくとも嫌な不快な感じはしていないだろう。むしろ、快感が生じるのであって、その快感を求めて盛んにレバーを押すのではないかと考えられる。従って、このような自己刺激部位は「快中枢」とも呼ばれるのである。その後、多くの人が研究を進めたところ、中脳の腹側被蓋野というところに起始細胞を持ち、前脳の側坐核や前頭皮質に投射するドーパミン神経路を刺激すれば自己刺激行動が盛んに生じることが示され、ドーパミン(DA)という物質が快感に関与するという概念が生まれた。そして現在ではこのような神経路のことを報酬系とよんでいる。
報酬系は腹側被蓋野を起点とし、視床下部外側野を通る内側前脳束を中心とする領域であるが、より具体的には、図に示すように、側坐核、腹側淡蒼球から視床下部外側野に至る経路も含む。中脳腹側被蓋野は、脚橋被蓋核からも入力を受け、前頭部へも広く出力する。側坐核へは、大脳皮質味覚野の存在する島皮質からも入力を受ける。また、報酬系には抑制性神経伝達物質であるGABA(ガンマアミノ酪酸)を含む神経線維も混在している。

すでに述べたように、ドーパミン系を電気刺激すると動物はその刺激を求めて盛んにレバー押しをする。このとき快感を生じているのだろうというのが素直な考え方である。しかし、もう一つ別の有力な考え方がある。それは快感に手の届く一歩手前の状態を生じさせているのだというものである。あたかも馬の前にぶら下げた人参のようなもので、人参を求めて走ってもいつも鼻先の一定の距離にある人参が口に入らない状態、すなわち、手に入りそうで入らない欲求不満の状態である。ドーパミン系は報酬が獲得できるまでそれに向かって欲求行動をとらせると考えられるのである。
といったわけで、近年、ドーパミンはおいしさそのものよりも、報酬を得ようとする欲求や期待に関係すると考えられている。例えば、腹側被蓋野の95%以上のドーパミン細胞を破壊したラットの口の中に、甘い砂糖水や苦いキニーネ溶液を入れて、おいしさ、まずさの指標となる口やあごの動きを分析すると、正常な動物と変らぬ反応性を示すのである。
つまり、ラットが自主的に摂取行動をするときにはドーパミンが関与するが、受動的に口の中に入れられたときにはドーパミンは関係ないといえる。積極的にそれが「欲しい」と思い、摂取行動を誘発するときにドーパミンが働くのである。ベンゾジアゼピン誘導体やモルヒネを投与したときの砂糖摂取量増大効果は、腹側被蓋野を前もって壊しておくと生じないのであるが、これは「おいしい」ということはわかっているのだが、「欲しい」という欲求が生じなかったからだと理解できる。
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